条件交渉
転職活動では面接に受かるためのテクニックなどに注目が集まりがちですが、本来的に重要なのは、前職より自分の理想の環境に身を移すことです。そのため、ただ採用されれば良いというものでありません。特に大切なのは、労働条件の内容です。ここでは条件交渉から交渉後における契約書のチェック、確認すべき事項やポイント等を解説していきますので、転職活動をしている方はぜひ参考にしてください。

転職活動において条件交渉は可能

転職活動において条件交渉は可能です。書類選考や面接段階に至れば企業が選ぶ側、応募者が選ばれる側になりますが、相手方が提示してきた条件をそのまま受け入れなければならない、というわけではありません。面接の際中に告げられた条件に納得がいかないのであれば自ら辞退することも可能ですし、交渉を持ちかけることも可能です。

面接時に確認すべき条件

より良い待遇を求めて交渉をするのみならず、その後のトラブルを起こさないために「条件の確認」も重要です。自分が認識している通りの内容で働くことができるのか、求人票等で見た情報と違いはないかどうか、認識ずれや勘違いがないことの確認を面接時にしておきましょう。

年収や各種手当などの待遇面

年収と手当に関しては双方を見つつ判断しなければなりません。年収で好待遇であったとしても、他社と比べて手当等の待遇が充実しておらず、結果的に手取りが少ないという可能性もあります。逆も同様です。基本給は多くないものの、手当が充実していることもあります。しかしながら、基本給を残業代や賞与等の計算に用いる場合に影響してきますのでそちらの考慮もしなければなりません。

勤務地や転勤の有無

勤務地に関しては、特にオフィス・店舗等が複数ある場合には注視する必要があります。勤務地に関して特に採用担当者から触れられず、本社で働けると勘違いをしてしまうケースもありますが、職務内容によっては別の勤務地で働くものとされていることがあるのです。お互いの当たり前にずれが生じており、応募者が条件内容をよく確認していないと想定外の問題が発生してしまいます。また、入社後の出勤先のみならず、「転勤の有無」も要確認です。

入社日

入社日に関しては転職活動ならではの確認事項と言えるでしょう。新卒であれば通常4月1日からですが、転職の場合は選考時期によってバラバラです。しかしながら転職活動をしている者はすでに退職をしている者もいれば、まだ他社で働いている者もいます。そのため採用が決まったとしてもすぐに働くことができないケースも多々あります。法的には2週間の猶予を持って退職したい旨を告げれば問題ありませんが、引継ぎのために1ヶ月から2ヶ月ほどは待ってほしいと言われることも多いです。そこで入社日の設定が大きな意味を持ちます。そのためご自身の状況は伝えておき、入社日の設定に無理がないかどうかを確認しましょう。

条件交渉におけるポイント

条件交渉をすること自体は可能ですが、ご自身が望むとおりの交渉結果が得られるかどうかは別問題です。そのためポイントを押さえて交渉することが大切です。

各条件に優先順位を付けること

すべてが上手くいく可能性は低いと考えられますので、まずは優先順位を付け、絶対に譲れない事柄と、ある程度譲歩しても良い事柄とを区分しておきましょう。

譲歩を視野に入れること

こちら側が譲歩の姿勢を示すことで相手方も納得してくれやすいです。なお、交渉の全過程に言えることですが、印象が悪くならないように配慮すべきです。言い分が真っ当であったとしても、言い方・態度を誤れば協調性や性格面で落とされる可能性が高くなります。

根拠を持って交渉すること

また、呈示した条件に納得してもらうには、根拠がなければなりません。ただ単に多くの賃金が欲しいと望んでもその希望は叶いません。賃金は労働に対する対価として渡されますので、それだけの成果が見込める人材であることを示さなければなりません。
新卒の場合にはこの点説得的に交渉するのは難しいですが、転職活動においては前職における実績や経験、スキルなどを比較的示しやすいでしょう。特定の資格をアピール材料に使うことも可能です。

採用が決まってから確認すべきこと

確認が必要なのは面接時に限られません。採用が決まってから再度確認することも非常に重要です。そこで以下の流れに沿って、それぞれ確認をしていきましょう。

労働条件を記載した通知書が届いたかどうか

まずは、労働条件が記載された通知書が届いたかどうかを確認します。通知書の体裁は企業によって異なりますので注意しましょう。表題が「労働条件通知書」とされていることもありますし、「内定通知書」や「雇用契約書」「採用通知書」などといった名称の書類に労働条件が記載されていることもあります。いずれにしろ重要なのはその中身です。ただ単に内定や採用確定のお知らせをする書類では不十分で、必ず労働条件が記載され、これを通知するものとなっているかどうか、よく見ておきましょう。なおこの通知は企業の義務でもあり、労働基準法第15条にその内容が規定されています。第1項では、企業に対し労働条件の通知を義務付けており、第2項ではその通知内容が事実と異なる場合労働者は契約を解除できると定められています。なお第3項では採用を機に引っ越しをしていた場合、契約を解除し、再び引っ越さないといけなくなった場合にかかる費用を企業が負担すべき旨規定されています。それほど企業がする通知が重要だということです。そのため法令遵守をしている会社であれば必ず送ってくれるでしょう。

(労働条件の明示)
第15条
第1項 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
第2項 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
第3項 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。


交渉した通りの内容かどうか

労働基準法第15条第1項で示すべきとされている条件の詳細は「労働基準法施行規則」の第5条に定められています。同条には、勤務地や業務内容、賃金、勤務時間、休日や休憩時間、退職に関すること、休職に関すること、その他様々な事項が記載されています。様々な事項が挙げられていますが、少なくとも以下の5つには目を通しておきましょう。その上で、面接時に交渉して約束をした条件が守られているかどうかにも着目します。
「契約期間」の確認に関しては、前項で説明した「入社日」の確認という意味合いも含みます。面接時に特定の入社日で折り合いがついていたとしても、それはあくまで口約束であり、客観的な証明が難しいです。そのためこの契約書の内容をよく確認せず承諾をしてしまうと、こちらが最終的な意思表示として認められてしまうおそれがあります。他の事項でも同様ですが、面接で確認を取ったから大丈夫などと安易に考えず、通知書の内容をしっかりと見ておかなければなりません。「想定残業時間」については同規則に定められてはおらず、これを通知する義務は企業にありません。義務とされているのは残業の有無のみです。しかしながら残業の長さは労働者の負担を大きく左右する要因です。特に交渉においてこの点話し合いをしていたのであれば、そこで告げられた内容と齟齬がないかどうか確認すべきです。

1. 契約期間
2. 就業場所
3. 賃金
4. 想定残業時間
5. 休日


採用が決まってからの注意点

就職後、ご自身が負担を抱えないよう、もしくはトラブルに発展しないようにするためにも以下の事柄に注意しましょう。

労働条件を記載した通知書は必ず受け取ること

上述の労働条件について記載した通知書は、書面で受け取ることに大きな意味があります。そのため各条件を確認するため、通知書が届いていないときの対応として、通知書の発送を求めましょう。問い合わせをして口頭で確認をするだけでは不十分です。もしも発送を求めたにもかかわらずこれに応じてくれないのであれば労基署への相談、あるいは弁護士への相談も検討すべきです。最悪、採用辞退をすることも視野に入れましょう。まず労基署への相談についてですが、ここでは個人の救済ではなく、企業の違法状態の是正等が目的とされています。そのため労基署への相談を介して通知書を出してもらうことが直接の目的とはできませんが、労働基準法に抵触する企業の状態を改善してもらうよう働きかけてもらい、結果として通知書を出してもらえる可能性があります。しかしながら相談をきっかけに調査が入り、自らの相談によるものだと知られてしまうと入社前から対立的な関係になってしまうおそれがあります。弁護士への相談も同様です。弁護士を介して通知書の発送を求めることで応じてもらいやすくなり、直接的な救済も図れますが、関係性は悪くなってしまいます。そういった理由により、違法に通知書の求めに応じてくれない企業の場合には辞退も検討することになるのです。

求人票は保管しておく

通知書の内容が認識していた事実と異なる場合、こちらもやはり「言った」「言わない」の問題になってくるため、交渉した内容は書面化しておくことが大事です。面接時のやり取りも、少なくともメモとして残しておくようにし、求人票も保管しておきましょう。求人票を残しておくことで、これを証拠として基本的な労働条件の齟齬を主張できるようになります。
ここで解説したように、労働条件をしっかり確認するということはその後良好な関係を築いていくためにも大切なことです。ご自身が心身ともに健全に働き続けるためにも、入社までの過程がとても重要になってくるのです。